奈良先端科学技術大学院大学 物質創成科学研究科
グリーンデバイス研究室〔中村研究室〕
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個々の研究テーマ紹介

有機薄膜におけるキャリア輸送バンド端プロファイルの解明

有機エレクトロニクスに関する理解は、これまで無機半導体のモデルを借用して進められてきた。しかし有機材料に特徴的な性質を調べるには、ミクロ構造と物性との対応を調べる局所評価法が必要である。当研究室ではペンタセン多結晶膜をモデル材料として、AFMポテンショメトリなどの独自評価法を開発し、放射光を利用した結晶構造解析などと組み合わせて物性評価を進めてきた。 これまでに、結晶ドメイン境界に生じる二重ショットキー障壁型の障壁層が、キャリア輸送のボトルネックになっていることや、従来は電気的に均一であると考えられていた結晶ドメイン中において、平均数十nm程度で周期的なバンド端プロファイルのゆらぎがあること、さらに単結晶であると考えられてきた結晶ドメインも、数十nmサイズの微細な結晶子によるモザイク構造であり、格子のコヒーレンシーが結晶子境界で破れることで前述のバンド端ゆらぎが生じること、などを明らかにしてきた。

図1.ペンタセン多結晶膜における結晶構造とHOMOバンド端プロファイルの関係

関係論文

  • R. Matsubara, N. Ohashi, M. Sakai, K. Kudo, and M. Nakamura: "Analysis of Barrier Height at Crystalline Domain Boundary and In-Domain Mobility in Pentacene Polycrystalline Films on SiO2", Appl. Phys. Lett. 92, 242108 (2008).
  • N. Ohashi, H. Tomii, R. Matsubara, M. Sakai, K. Kudo, and M. Nakamura: "Conductivity fluctuation within a crystalline domain and its origin in pentacene thin-film transistors", Appl. Phys. Lett. 91, 162105 (2007).
  • R. Matsubara, M. Sakai, K. Kudo, N. Yoshimoto, I. Hirosawa, and M. Nakamura: "Crystal Order in Pentacene Thin Films Grown on SiO2 and Its Influence on Electronic Band Structure", Org. Electron. 12, 195 (2011).
  • S. Yogev, R. Matsubara, M. Nakamura, U. Zschieschang, H. Klauk, and Y. Rosenwaks: "Fermi Level Pinning by Gap States inorganic Semiconductors", Phys. Rev. Lett. 110, 036803 (2013).
  • M. Nakamura and R. Matsubara: "Carrier Mobility in Organic Thin-film Transistors: Limiting Factors and Countermeasures", J. Photopolym. Sci. Technol. 27, 307 (2014).
  • 松原亮介, 中村雅一:"放射光を用いた高角度分解能インプレーンX線回折による有機多結晶薄膜の結晶構造解析", 応用物理学会M&BE誌 25, 1172 (2014).
  • R. Matsubara, Y. Sakai, T. Nomura, M. Sakai, K. Kudo, Y. Majima, D. Knipp and M. Nakamura: "Quantitative investigation of the effect of gate-dielectric surface treatments on limiting factors of mobility in organic thin-film transistors", J. Appl. Phys. 118, 175502 (2015).

AFMポテンショメトリによるナノスケール電位マッピング

導体や半導体の試料薄膜の電位分布は、電気伝導現象を理解するうえで重要な情報である。当研究室が開発したAFM(原子間力顕微鏡)ポテンショメトリは、カンチレバーホルダーに組み込まれた超高感度電圧測定回路によって、薄膜内の電位分布(「表面電位」ではなく、内部のキャリアが感じる「疑フェルミレベル分布」)を10 nm程度の空間分解能で計測することができる。例えばペンタセンTFTにおけるチャネル中央付近のAFM形状像(図1)からは、菱形状の結晶粒と分子ステップが観測でき、同時に電位像を測定できる(図2)。電流は、図の右から左へ電位勾配に従って流れている。これを見れば、どこでどの方向に電流が流れているかや、結晶粒界が高抵抗になっている様子などが一目瞭然でわかる。この世界最高水準の評価装置を用いて、有機TFTにおけるキャリア輸送の制限要因を明らかにし、最近では結晶粒内のHOMOバンドの空間的なゆらぎを直接観測することにも成功している。

図1.ペンタセンTFTチャネル部の形状像

図2.AFMP電位像(等高線表示)

関係論文

  • M. Nakamura, M. Fukuyo, E. Wakata, M. Iizuka, K. Kudo, K.Tanaka: "Development of AFM Potentiometry for Potential Mapping of Organic Conductors", Synthetic Metals 137, 887 (2003).
  • M. Nakamura, N. Goto, N. Ohashi, M. Sakai, and K. Kudo:"Potential Mapping of Pentacene Thin-Film Transistors Using Purely Electric Atomic-Force-Microscope Potentiometry", Appl. Phys. Lett. 86, 122112 (2005).
  • N. Ohashi, H. Tomii, R. Matsubara, M. Sakai, K. Kudo, and M. Nakamura: "Conductivity fluctuation within a crystalline domain and its origin in pentacene thin-film transistors", Appl. Phys. Lett. 91, 162105 (2007).
  • M. Nakamura, H. Ohguri, N. Goto, H. Tomii, M.-S. Xu, T. Miyamoto, R. Matsubara, N. Ohashi, M. Sakai and K. Kudo: "Extrinsic Limiting Factors of Carrier Transport in Organic Field-Effect Transistors", Applied Physics A 95, 73 (2009).
  • J.-G. Yang, W.-L. Seah, H. Guo, J.-K. Tan, M. Zhou, R. Matsubara, M. Nakamura, R.-Q. Png, P.K.H. Ho, and L.-L. Chua: "Characterization of ohmic contacts in polymer organic field-effect transistors", Org. Electron. 37, 491 (2016).

有機無機ハイブリッドペロブスカイトの電子構造と欠陥の解明

近年、有機無機ハイブリッド材料である有機金属ハライドペロブスカイトが新世代の太陽電池材料として注目を集めており、これを用いた太陽電池の光電変換効率も、5年で3.8%から22%という他の材料をはるかに上回る急上昇を見せている。しかし、この材料に残された重要課題の1つである大気に対する安定性の問題に加えて、作製法によって組成・結晶性・欠陥密度が変化することが災いし、電子構造の十分な精度での測定や欠陥準位の起源の理解などが十分に成されているとは言いがたい。
この課題に対して当研究室では、再現性良く純度の高い試料が得られる真空蒸着法を用い、有機金属ハライドペロブスカイトの電子構造を解明する研究を行っている。シンクロトロン放射光を用いた最先端の表面分析や、研究室独自装置による電界効果熱刺激電流測定およびテラヘルツ時間領域分光法などを駆使して評価を行っている。

図1.有機金属ハライドペロブスカイトの結晶構造

図2.NEXAFSにより明らかになった欠陥構造

関係論文

  • S. R. Raga, M.-C. Jung, M. V. Lee, M. R. Leyden, Y. Kato, and Y. Qi: "The influence of air annealing on high efficiency planar structure perovskite solar cells", Chemistry of Materials 27, 1597 (2015).
  • M.-C. Jung, S. R. Raga, and Y. Qi: "Properties and solar cell applications of Pb-free perovskite films formed by vapor deposition", RSC Adv. 6, 2819 (2016).
  • M.-C. Jung and Y. Qi: "Dopant interdiffusion effects in n-i-p structured spiro-OMeTAD hole transport layer of organometal halide perovskite solar cells", Org. Electr. 31, 71 (2016).
  • M.-C. Jung, Y. M. Lee, H.-K. Lee, J. Park, S. R. Raga, L. K. Ono, S. Wang, M. R. Leyden, B. D. Yu, S. Hong, and Y. Qi: "The presence of CH3NH2 neutral species in organometal halide perovskite films", Appl. Phys. Lett. 108, 073901 (2016).

「やわらかい熱電材料」の探索

人間のあらゆる活動には排熱が伴い、人体もまた100 W程度の熱源である。この未利用エネルギーを回収利用するために、フレキシブル熱電変換デバイスが有望視されている。当研究室では独自の熱電特性評価装置を開発し、種々の有機材料の熱電特性を評価し、新しいメカニズムによるゼーベック効果を研究している。
これまでに、高純度なフラーレン多結晶薄膜が巨大なゼーベック効果(図1)を示すことを発見した。これは、従来よく知られている理論では説明できない特異な現象である。その後、多くの有機低分子薄膜において、同様の巨大ゼーベック効果が見られることがわかってきている。物性物理学的に興味深い現象であるだけでなく、これが実用化すると、単一の有機材料を2枚の電極で挟んだこれ以上ないシンプルな構造の熱電変換素子が生みだされると期待されている。現在、この現象を制御すべく、実験・計算の両面から研究を進めている。

図1.高純度フラーレン薄膜における巨大なゼーベック係数とその温度依存性:緑色の帯は従来の熱電理論で予測される値の範囲を示しており、不純物ドーピングを行ったフラーレンによる実験値は、この範囲内に入っている。


さらに、高導電率材料と高ゼーベック係数・低熱伝導率材料の直列接続構造を作り込むことで、高性能な熱電複合材料を得るための研究も行っている。例えば、カーボンナノチューブ(CNT)と籠状タンパク質C-Dpsを組み合わせることによって、自己組織的に図2のような単分子接合が形成され、接合部のフォノン散乱により熱流は伝えないが、トンネル効果によって電子あるいはホールを選択的に透過させる理想的な構造を形成することに成功した。その結果、CNT単体と比較して、大きなパワーファクターと極めて小さな熱伝導率を得ることに成功している。

図2.2本のカーボンナノチューブが2個の無機粒子内包タンパク質分子で橋渡しされた接合部の模式図

関係論文

  • M. Nakamura, Atsushi Hoshi, M. Sakai, and K. Kudo: “Evaluation of Thermopower of Organic Materials toward Flexible Thermoelectric Power Generators”, Mat. Res. Soc. Symp. Proc. 1197, 1197-D09-07 (2010).
  • M. Nakamura, Y. Tomatsu, R. Matsubara, A. Hoshi, and M. Sakai: “Potential of Organic Materials for the Application to Thermoelectric Generators”, Ext. Abs. 2012 Int. Conf. on Solid State Devices and Materials, pp. 1299-1300 (2012).
  • 中村雅一:“フレキシブル環境発電デバイスをめざした有機熱電材料探索”, 応用物理 82, 954 (2013).
  • M. Ito, N. Okamoto, R. Abe, H. Kojima, R. Matsubara, I. Yamashita, and M. Nakamura:“Enhancement of Thermoelectric Properties of Carbon Nanotube Composites by Inserting Biomolecules at Nanotube Junctions”, Appl. Phys. Express 7, 065102 (2014).
  • 中村雅一:“フレキシブル環境発電デバイスをめざした「やわらかい」熱電材料の探索”, 日本熱電学会誌 10, 8 (2014).
  • H. Kojima, R. Abe, M. Ito, Y. Tomatsu, F. Fujiwara, R. Matsubara, N. Yoshimoto, M. Nakamura: "Giant Seebeck effect in pure fullerene thin films", Appl. Phys. Express 8, 121301 (2015).
  • 中村雅一, 小島広孝:“‘やわらかい’熱電材料を追い求めて─ 有機材料が熱電変換にブレークスルーをもたらす!?”, 化学 71, 31 (2016).

OFET構造を利用したフレキシブルTHz波イメージングデバイス

ペンタセン薄膜に存在するバンド端ゆらぎのポテンシャル障壁の高さは数~十数meVであり、ちょうどTHz領域のフォトンエネルギーに相当する。THzフォトンからエネルギーを受け取った正孔(ホール)がゆらぎポテンシャルの谷底から放出されて有機FETのチャネル内を輸送されることで、THz波検出センサーとして働くと期待される。(図1)
図2は、THz時間ドメイン分光法(THz-TDS)を用いて、ペンタセンFET中に電界誘起されたホールによるTHz波の吸収特性を調べた結果である。赤線(ペンタセンに起因する吸収)と青線(ゲート電極として用いたシリコンに起因する吸収)との差分(赤いハッチング部分)が、世界で初めて測定されたペンタセン中で電界誘起されたホールによる吸収スペクトルである。ゆらぎポテンシャルの形状を反映して、正孔が障壁を乗り越えて励起される様子を表しており、THz波センシングための素過程の一つが確かに起こっていることを示している。現在、THz波イメージングデバイスを実現に向けた、種々のアプローチを行っている。

図1.OFET型THzセンサの動作原理

図2.ペンタセンFETに電界効果ドーピングされたキャリアによるTHz領域の吸収スペクトル

関係論文

  1. N. Ohashi, H. Tomii, R. Matsubara, M. Sakai, K. Kudo, and M. Nakamura: "Conductivity fluctuation within a crystalline domain and its origin in pentacene thin-film transistors", Appl. Phys. Lett. 91, 162105 (2007).
  2. R. Matsubara, N. Ohashi, M. Sakai, K. Kudo, and M. Nakamura: "Analysis of Barrier Height at Crystalline Domain Boundary and In-Domain Mobility in Pentacene Polycrystalline Films on SiO2", Appl. Phys. Lett. 92, 242108 (2008).
  3. M.-S. Xu, M. Nakamura*, M. Sakai, and K. Kudo: "High-Performance Bottom-Contact Organic Thin-Film Transistors with Controlled Molecule-Crystal/Electrode Interface", Adv. Mater. 19, 371 (2007).
  4. S.-G. Li, N. Nakayama, M. Sakai, K. Kudo, R. Matsubara, and M. Nakamura: "Oriented Growth of Pentacene Crystals for Improvement of the Charac-teristics of OTFTs", Org. Electron. 13, 864 (2012).
  5. S.-G. Li, R. Matsubara, T. Matsusue, M. Sakai, K. Kudo, and M. Nakamura: "THz-Wave Absorption by Field-Induced Carriers in Pentacene Thin-Film Transistors for THz Imaging Sensors", Org. Electron. 14, 1157 (2013).
  6. M. Nakamura, S.-G. Li, T. Ueda, K. Fujii, and R. Matsubara: "Potential Fluctuation of the Carrier Transporting Levels in Organic Field-Effect Transistors and Its Application to Terahertz-Wave Sensors", J. Vac. Soc. Jpn. 58, 97 (2015).

高分子で創る光電子機能材料

共役系高分子(共役高分子)は、光吸収、発光、電子ドナー/アクセプター性、電荷輸送能をあわせ持つ有機半導体である。このような半導体としての特性と、高分子がもつ優れた成膜性・柔軟性を活かして創る、薄くて柔らかな光電子機能性薄膜は、次世代エレクトロニクスの基幹材料として期待されている。そのなかでも我々は、再生可能エネルギーを活用し、深刻化する地球環境問題やエネルギー問題を解決しうる一つの手段として、共役高分子の薄膜を発電層に用いる太陽電池(プラスチック太陽電池)の研究開発をおこなっている。

図1.共役高分子の特長と機能

関係論文

  1. H. Benten, D. Mori, H. Ohkita, and S. Ito: "Polymer Donor–Polymer Acceptor Solar Cells", Handbook of Polymer and Hybrid Photovoltaics, Wiley (2017).
  2. H. Benten, D. Mori, H. Ohkita, and S. Ito: "Recent Research Progress of Polymer Donor/Polymer Acceptor Blend Solar Cells", J. Mater. Chem. A 4, 5340 (2016).

高効率プラスチック太陽電池の開発

太陽の光を吸収し、プラスやマイナスの電荷を運ぶ共役高分子を用いて、次世代の新型太陽電池として期待されているプラスチック太陽電池を開発している。
共役高分子の光吸収波長やHOMO/LUMO準位などの電子物性、分子量や結晶/非晶性といった分子特性を最適化するとともに、発電層の内部構造を分子スケールで制御することにより、エネルギー変換効率の向上を目指している。また、その発電メカニズムを解明する研究にも力を入れている。

図1.高分子で創る軽くて柔らかい太陽電池

関係論文

  1. H. Benten, T. Nishida, D. Mori, H. Ohkita, and S. Ito: "Ternary Blend of Conjugated Polymers for Broadening the Absorption Bandwidth of Polymer Solar Cells", J. Photopolym. Sci. Technol. 29, 537 (2016).
  2. H. Benten, T. Nishida, D. Mori, H. Xu, H. Ohkita, and S. Ito: "High-Performance Ternary Blend All-Polymer Solar Cells with Complementary Absorption Bands from Visible to Near-Infrared Wavelengths", Energy Environ. Sci. 9, 135 (2016).
  3. D. Mori, H. Benten, I. Okada, H. Ohkita, and S. Ito: "Highly Efficient Charge-Carrier Generation and Collection in Polymer/Polymer Blend Solar Cells with a Power Conversion Efficiency of 5.7%", Energy Environ. Sci. 7, 2939 (2014).

分子の空間における光・電子機能を“みる”

プラスチック太陽電池など共役高分子で創る光電子機能材料の性能には数~数十ナノメートル領域での高分子凝集構造や相分離構造が深くかかわっている。
当研究室では、高分子薄膜が示すナノ空間における光・電子機能をナノサイズの電極を用いることで計測して可視化することで、従来の手法では知ることができなかった光・電子機能発現の根源に迫るための研究を行っている。

図1.電流計測原子間力顕微鏡でナノ空間の光・電子機能を計測する

関係論文

  1. M. Osaka, D. Mori, H. Benten, H. Ogawa, H. Ohkita, and S. Ito: "Charge Transport in Intermixed Regions of All-Polymer Solar Cells Studied by Conductive Atomic Force Microscopy", ACS Applied Materials & Interfaces (in press).
  2. M. Osaka, H. Benten, H. Ohkita, and S. Ito: "Intermixed Donor/Acceptor Region in Conjugated Polymer Blends Visualized by Conductive Atomic Microscopy", Macromolecules 50, 1618 (2017).
  3. M. Osaka, H. Benten, L.-T. Lee, H. Ohkita, S. Ito, H. Ogawa, and T. Kanaya: "Nanostructures for Efficient Hole Transport in Poly(3-hexylthiophene) Film: A Study by Conductive Atomic Microscopy", J. Phys. Chem. C 119, 24307 (2015).
  4. Y. Kondo, M. Osaka, H. Benten,* H. Ohkita, and S. Ito: "Electron Transport Nanostructures of Conjugated Polymer Films Visualized by Conductive Atomic Force Microscopy", ACS Macro Lett. 4, 879 (2015).
  5. M. Osaka, H. Benten, L.-T. Lee, H. Ohkita, and S. Ito: "Development of Highly Conductive Nanodomains in Poly(3-hexylthiophene) Film Studied by Conductive Atomic Force Microscopy", Polymer 54, 3443 (2013).

有機低分子薄膜用大面積高速成膜法の開発

有機ELなどの低分子材料を用いた大面積有機エレクトロニクスデバイスを製造するにあたり、真空蒸着法には様々な利点がある。しかし、真空蒸着法の課題として、装置導入・維持コストの高さが指摘されている。それに対して当研究室では、真空蒸着法のプロセスコストを劇的に低減させるための新たな基礎技術を開発している。キャピラリー状の放出口を持つ「高速分子線セル」によって、簡単な構造でビーム状の分子線を放出させ、最大100 Å/s程度までの高速成膜が制御可能である。
図1は、研究用途で有機薄膜を成長させる場合の真空排気時間を含めたトータルタイムの比較である。従来150分程度要していた工程が50分程度にまで短縮されている。真空連続プロセスにすれば、約30倍の高速化となる。一方、成膜速度を速めると膜の結晶性が低下し、キャリア輸送能力が低下することが懸念される。しかし、図2に示されるように、高成膜速度化に伴いキャリア移動度を上昇させる副次的効果も得られている。

図1.OFET活性層成膜に要する時間の短縮効果(独立装置での単層成膜)

図2.ペンタセン薄膜における成膜速度とキャリア移動度の関係(能動的基板加熱なし)

関係論文

  1. (to be updated soon).

以下は、終了したテーマ

特定波長の光のみを利用する「明るい有機太陽電池」

小〜中規模の分散エネルギー源として、太陽電池の重要性が増してきている。様々な種類の太陽電池の中で、有機半導体材料を用いた有機太陽電池は分子設計により吸収する光の波長を容易にチューニングすることができるという特長を持っている。
エナジーハーベスティングの観点から見ると、例えば室内での環境発電において照度を低下させないためには、人間の視感度が低いが室内照明におけるエネルギー密度が高い青色光のみを吸収する太陽電池が有望である。図1は、そのような目的で作製された(1)主に青色光を発電に用いる有機太陽電池と(2)青色光に加えて赤色〜赤外光を発電に用いる有機太陽電池の写真と吸収スペクトルである。(2)と比較しても(1)の太陽電池の見た目が明るいことが判る。このような光をあまり吸収しない太陽電池でも、青色領域に限れば光電変換の外部量子効率70%前後の値が得られており、LED照明に対する全波長領域のエネルギー変換効率として数%のものが得られている。

図1.「明るい太陽電池」の写真と吸収スペクトル

関係論文

  1. S. Kanto, Y. Chai, R. Matsubara, and M. Nakamura: "Bright-Color Organic Photovoltaic Devices Using Benzothieno-Benzothiophenes for Room-Ambient Energy Harvesting", Seventh International Conference on Molecular Electronics and Bioelectronics (Fukuoka, Japan), p. 249 (2013.3.19).

温度可変四探針電界効果測定装置による電気物性評価

独自評価技術である四探針電界効果測定を発展させ、温度可変四探針電界効果測定装置を住友重機械アドバンストマシナリー(株)と共同開発している。(図1)これを用いることで、有機トランジスタなどに使われる有機半導体材料における電極の影響を受けない「真の電界効果キャリア移動度」を真空中で温度を変化させて評価することができる。これまでの実績では、移動度の範囲100~10-7 cm2/Vsにわたって評価が可能である。この装置を用いて、有機半導体材料の真の電界効果キャリア移動度が作成条件などによってどのように変化するかを評価している。最近、ペンタセンの多結晶膜において、移動度の結晶ドメインサイズ依存性および温度依存性(図2)から結晶ドメイン境界のバリア高さ(150 meV)とドメイン内のホール移動度(1.0 cm2/Vs)を見積もることに成功した。

図1.マイクロ四探針接触部(探針は真空中)

図2.ペンタセン多結晶膜における移動度の結晶ドメインサイズ依存性

関係論文

  • M. Nakamura, H. Ohguri, H. Yanagisawa, N. Goto, N. Ohashi and K. Kudo: " Electrical Characterization of Pentacene Thin Films Using Four-Point-Probe Field-Effect Measurement and Atomic Force Microscope Potentiometry ", Proceeding of the International Symposium on Super-Functionality Organic Devices, IPAP Conference Series 6, 130 (2005) .
  • R. Matsubara, N. Ohashi, M. Sakai, K. Kudo, and M. Nakamura: "Analysis of Barrier Height at Crystalline Domain Boundary and In-Domain Mobility in Pentacene Polycrystalline Films on SiO2", Appl. Phys. Lett. 92, 242108 (2008).
  • M. Nakamura, H. Ohguri, N. Goto, H. Tomii, M.-S. Xu, T. Miyamoto, R. Matsubara, N. Ohashi, M. Sakai and K. Kudo: "Extrinsic Limiting Factors of Carrier Transport in Organic Field-Effect Transistors", Applied Physics A 95, 73 (2009).

コロイダルリソグラフィーを用いた「高次構造」OSITの作製

低コスト大面積プロセス、いわゆるroll-to-roll対応プロセスにおいて、いかに高性能な有機トランジスタが作れるかが、大面積フレキシブルエレクトロニクスがどこまで広がるかを左右する。有機トランジスタが本来不得意である低電圧で大電流負荷を駆動する用途のために、当研究室では「有機パワートランジスタ」とも言える素子の簡単かつ極めて再現性の良い作製プロセスを開発した。帯電したポリマー微粒子を溶液中で基板に分散付着させ、それを蒸着マスクとして多孔質2層電極を形成し、使用後の微粒子は粘着テープで剥離する。その後に有機半導体層および上部ソース電極を蒸着することによって、図1のようなLSIレベルの微細な断面構造を有するOSITセルが1cm2あたり約7億個形成される。それらが並列動作することで、低移動度材料を持ちいても、低駆動電圧(数V)、大出力電流(数百mA/cm2)、高速動作(数十kHz程度)が達成される。

図1.「高次構造」OSITの断面TEM写真(1セル分)

図2.高次構造OSITの動作シミュレーション

参考

関係論文

  • K. Fujimoto, T. Hiroi, M. Nakamura:“Organic Static Induction Transistors with Nano-Hole Arrays Fabricated by Colloidal Lithography”, e-J. Surf. Sci. Nanotech. 3, 327 (2005).
  • N. Ohashi, M. Nakamura, N. Muraishi, M. Sakai, Non-members, and K. Kudo: “Fabrication and Device Simulation of Single Nano-Scale Organic Static Induction Transistors”, IEICE Trans. Electron. E89-C, 1765 (2006).
  • K. Fujimoto, T. Hiroi, K. Kudo, and M. Nakamura: “High-Performance Vertical-Type Organic Transistor with Built-in Nano-Triode Array”, Adv. Mater. 19, 525 (2007).
  • T. Sawabe, K. Okamura, T. Sueyoshi, T. Miyamoto, K. Kudo, N. Ueno, and M. Nakamura: "Vertical Electrical Conduction in Pentacene Polycrystalline Thin Films Mediated by Au-Induced Gap States at Grain Boundaries", Applied Physics A 95, 225 (2009).