X線の共鳴磁気散乱、薄膜の磁性

 
 X線の主たる散乱源は物質中の電子電荷です。電子の磁気モーメントもX線を散乱するが、電荷に較べて非常に弱い散乱源なので、X線が磁性研究に使われることはなかった。しかし、第3世代シンクロトロンX線の出現と共鳴X線磁気散乱の発見により事情が一変し、X線散乱は中性子線散乱、メスバウアー分光、磁気円二色吸収、光電子分光などより優れた磁性プローブになった。共鳴X線磁気散乱は原子の吸収端で起きます。吸収端エネルギーは元素、電子軌道に固有なので、これを利用すると、試料中の元素毎、電子軌道毎の磁性を測定できます。下図はGd L3吸収端(電子遷移:2p3/2→5d)の共鳴X線磁気散乱で決定した[Fe(3.5 nm)/Gd(5.4 nm)]15多層膜のGd層の磁化分布です。試料温度により5d電子の磁気モーメントの大きさと方向が(A)〜(D)の矢印ように変化することが分かります。希土類元素Gdの磁性は主として4f電子のスピンによるが、5dモーメントは4fモーメントの挙動を反映すると考えられます。このように、Fe磁化の存在下でGdの磁性を調べることは、元素識別性を持たない方法では不可能です。数nmの薄膜の厚さ方向の磁化分布を実験で見たのは世界初です。



                 [Fe(3.5 nm)/Gd(5.4 nm)]15多層膜のGd層の磁化分布

この測定はシンクロトロンX線の高強度と偏光性を利用しています。磁気散乱は電荷散乱より圧倒的に弱いので、電荷散乱を消し去らなければ、見ることができません。上の実験では、二つの散乱の偏光依存性の違いを利用して磁気散乱を取り出しています。これを可能にするため、偏光状態が良く分かったX線を実験に用いました。この実験ではアンジュレータ−光源から得たX線をダイアモンド移相子で円偏光化して使いました。円偏光X線の共鳴散乱により薄膜や界面の磁気構造を調べる技術は本講座で開発したものです。我々はこの技術を応用して間接交換結合、巨大磁気抵抗トンネル磁気抵抗(TMR)膜などの磁性物理を研究しています。将来は、スプリング磁石、磁性細線、量子磁気ドットなどのナノ磁性材料、スピンエレクトロニクス材料に研究を発展させます。下のposterをクリックすると、Fe/Gd多層膜の磁気構造について詳しい説明が見られます。
For details, refer to the poster presented in International Congress on Metallic Multilayers MML'01



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