いろいろ雑文

最終更新日: 2012/1/23

「研究紹介・自己紹介」(2012/1/23)/ 「運がいい人間」とは(2012/1/10)/ 「ワーク・ライフ・バランス」(2011/1/22)



2012年1月23日:
科研費・新学術領域研究「電磁メタマテリアル」のニュースレターに、 研究紹介・自己紹介を書きました。1月20日にWEB公開されたので、ここに再録します。
なお、ニュースレターの公式ページは ここです。

科学研究費補助金 新学術領域研究 電磁メタマテリアル NewsLetter Vol.7, No.2
<研究紹介・自己紹介>


研究項目A02:計画研究エ
「周期構造を利用した光メタマテリアルの作製と物理」

研究分担者 冨田知志 (奈良先端科学技術大学院大学)

私は、ナノスケールの物質が電場と磁場にどのように応答するのかに興味を持ち、 実験的手法をもちいて研究を進めてきました。その観点から、 ここ10年ほどは電磁メタマテリアルの研究を行っています。対象とする電磁波は、 磁性体を用いた場合のマイクロ波から、プラズモニックな貴金属を用いた場合の可視光までです。 そこに何か面白い現象が潜んでいそうであれば周波数の越境を厭わないこと、 を自分に言い聞かせて研究しています。

現在の主な研究テーマは、1.金属・誘電体多層膜系での光輸送とカシミール効果、 2.蛋白質やウイルスなど生体超分子を用いた3次元光学メタマテリアル、 3.磁性体を用いたマイクロ波領域でのスピン波メタマテリアルなどです。 以下で、これまでの経緯を紹介しながら、これらのテーマに触れていきたいと思います。

私とメタマテリアルとの出会いは2002年でした。それは、 生まれ育った街にある神戸大学・工学部・電気電子工学科の林真至研究室で6年間過ごし、 学位を取得したのち、埼玉県・和光市にある理化学研究所・ナノ物質工学研究室に、 博士研究員として潜り込んだ直後でした。当時の武内一夫・主任研究員には、 「磁性体のナノ粒子で何か面白いことをやりましょう」ということを言われただけだった、 と記憶しています。とはいえ磁性体ナノ粒子など、学生時代に少しかじっただけで、 全くの素人同然です。最初の数カ月は、いろいろな文献を調べて過ごしました。

その中で、2002年4月にPhysical Review B誌に掲載されたばかりの 「磁性金属グラニュラーコンポジットによる左手系物質の可能性に関する理論検討」という、 アメリカのChuiさん達による論文にめぐり合いました。 磁性金属ナノ粒子での電子磁気共鳴を用いて、マイクロ波に対する負の透磁率を実現し、 それにより左手系メタマテリアルが実現できるかもしれない、という内容でした。 手元に残っている論文コピーには、 「おもろいかも。むずいけど」という当時の私の手書きのコメントがあります。 これが正直な第一印象でした。

実際、学生時代の私はいわゆる"光物性"の研究室で育ったので、 "透磁率は1"の世界にどっぷりとつかっていました。学生時代の研究テーマも 「タマネギ状炭素ナノ粒子の構造と光物性」という、なんとも怪しげなテーマでした。 C60フラーレンが、ちょうどロシア人形のマトリョーシカのように、 入れ子構造になったこの炭素ナノ粒子の構造のみならず光学応答は、 宇宙空間に存在する星間塵による減光曲線の217.5nmのピークの起源なども絡んで、 とても面白い問題を含んでいました。しかしそこで誘電率という言葉は出てきても、 透磁率という言葉には、お目にかかったことがありませんでした。 いや、目にはしていたけれども完全にスルーしていたのでしょう。 にもかかわらず直観的に「なんだかこれは面白そうだ」というセンサーが働いたのだと思います。 その理由は今もって解りませんけれど。

ということで早速、磁性金属ナノコンポジットを使った左手系の研究を始めました。 たまに自分でも「そんな無茶をよくやったな」と思いますが、 当時の私は失うものはあまりなかったので、こういう冒険も可能だったのだと思います。 ペーペーの博士研究員の思い付きによる全くのゼロからのスタートだったので、 当然周りに適当な実験設備もありません。そこで当初は、 神戸大の林研究室のスパッタ装置を借りて実験していました。そのうち、 潮田資勝先生(現、物質材料研究機構)が領域総括の科学技術振興機構 「さきがけ」に採択していただき、その専任研究員となり、理研で研究を続けました。

さきがけでは、学生時代からの知り合いである赤松謙祐さん(甲南大学)と一緒に、 化学的手法で磁性金属ナノコンポジットを作製し、 ニッケルなど磁性ナノ粒子のサイズと体積充填率が独立に制御できることを見出しました。 これにより磁気双極子相互作用が制御でき、それが透磁率の制御に繋がると期待されます。 更に当時、理研の磁性研にいらっしゃった勝又紘一さんや萩原政幸さん(現、大阪大学)に、 ご協力いただきながら、我々のコンポジットの磁気特性や電磁気応答、 特にマイクロ波を用いた電子磁気共鳴を調べました。 また当時、日立金属の三俣千春さん(現、東北大学)と応用磁気学会 (現、日本磁気学会)という場で出会い、 数値計算結果をもとに様々な物理の基礎を議論して頂きました。 この研究テーマは未だ完結しておらず、現在も興味を持って、 ここに名前を挙げた方々と取り組み続けています。これが冒頭の3番目のテーマにあたります。

さきがけの期間中は、潤沢な資金のもとで、自由に研究をさせていただきました。 最後には可視光領域にまで越境し、金ナノ粒子が埋め込まれた磁性ガーネットで、 局在表面プラズモンと磁気光学効果がカップルした現象を観測しました。また、 文科省・ナノテクノロジー総合支援プロジェクト 「日英ナノテクノロジー若手研究者交流プログラム」の枠組みで、2006年2月に1か月間、 英国・ロンドンにあるImperial CollegeのProf. Sir. John Pendryの研究室に滞在できたことは、 個人的に実り多い体験でした。

「何かをせねばならない」という滞在中のミッションが特になかったのが、 かえってよかったのでしょうか。他のポスドクの人達と一緒の部屋に机をもらい、 様々な人達との議論、セミナーでの講演、セミナーへの参加、他の研究室の見学、 英国の他の大学を訪問など、自由で刺激的な一ヶ月間でした。 この時に同室だったBen Wood博士とはその後に一緒に論文を書きましたし、 Jensen Li博士(現、City Univ. of Hong Kong)とはその後も交流を続けています。 この滞在で、後に実験を行う多層膜メタマテリアルの研究のアイディアは産まれてきました。 短期間でしたが、いやもしかしたらそれゆえ、 "余裕"に根差した"寛容さ"など英国の良い面をたくさん感じました。 欧州危機が叫ばれる現在では想像できない1英国ポンドが210円と、 英国経済が絶好調の時代だったので、余計にそう感じたのかもしれません。

さきがけ研究終了の2006年4月に、奈良先端科学技術大学院大学(NAIST)の物質創成科学研究科の、 柳久雄教授に呼んでいただき、現在まで、量子物性科学研究室の助教として研究を進めています。 NAISTに来てからは、光領域でのメタマテリアルの研究を本格化させました。 まずPendryさんやWoodさんたちと議論した、 スーパーレンズとしての多層膜メタマテリアルの近接場光輸送の基礎を調べる実験に 取り掛かりました。スーパーレンズ効果は、「近接場」=「波数の大きな光子(フォトン)」 が表面プラズモンポラリトンを介して共鳴トンネルする現象と解釈できるので、 そのようなフォトンがどのようなモードを介せば、 多層膜断面方向にどの程度の長距離運ばれるのか、などに興味をもちながら実験を行いました。

スパッタリング法で、銀やアルミニウムなどの金属と絶縁体の多層膜を作製し、 全反射減衰(ATR)法を発展させた共鳴フォトントンネリング測定(ATR-RPT)システムで、 測定しました。実はATR-RPTは学生時代に同級生がやっていた実験で、 10年後にまさか自分が取り組むことになるとは思わなかったので、 「学生時代にもう少しまじめに勉強しておけばよかった」と反省したことを思い出します。 Woodさんや林先生のご協力で転送行列法による計算も行いました。 また最も単純な多層膜メタマテリアルといえる金属・絶縁体・金属(MIM)構造の光輸送を調べ、 TM0モードを用いると近接場光を伝搬光に変換するハイパーレンズとして働く 可能性を示しました。このMIM構造での光の共鳴輸送の研究が、 冒頭1のカシミール効果の研究に行きつきました。

カシミール効果とは、電磁場のゼロ点振動(量子的ゆらぎ)のエネルギーが、 物体の存在により変化を受けることです。 (いまだに自分でもうまくイメージできませんが、そういうことらしいです。) その結果として、完全導体平行平板間に発生する引力(カシミール力)が生まれます。 カシミール力は言葉を変えると、 光速が有限であるが故に"仮想的な"光子が長距離伝播したことによる遅延効果を取りこんだ、 ファン・デア・ワールス力とも言えます。そのカシミール力は、通常、引力です。しかし、 ある特殊な条件下では斥力となりうることが近年、理論的に示され、 実験も精力的に行われています。

我々は、自分たちがまったく別の観点から研究を進めてきたMIM構造は、 カシミール効果の検証に用いられる二枚の金属平板がサブミクロン程度に隔てられた系、 まさにそのものであり、更にそこでの導波モードを用いれば、 これまで困難であったカシミール斥力(負のカシミール効果)が実現できるかもしれない、 と気がつきました。そこで今後は、 完全固相系のMIM構造での負のカシミール効果の実験的検証を目指し、 研究を展開したいと考えています。負のカシミール効果の研究によって得られる成果は、 MEMS/NEMSの省エネルギー駆動、近接場光を用いた熱の効率的利用、 "仮想的"な光子から"実在的"な光子を取り出す技術など、 他の様々な分野への大きな波及効果が期待されます。

またNAISTはバイオサイエンスの研究が盛んなので、 2008年からはバイオサイエンスの研究者と共に、 蛋白質やウイルスなどの生体超分子を用いた光学メタマテリアルの創成にも取り組んでいます。 蛋白質やウイルスは、DNAやRNAという"設計図"に基づき作られる、 identicalな"規格品"と言えます。さらにそのサイズは数〜数十nmです。 よって、これらを可視光領域でのメタマテリアルの構成要素として利用できないかと考えています。 また生体超分子が持つ自己組織化能力を活用して、 究極的には3次元光学メタマテリアルを目指しています。 現在、小林未明さん(がん研究所)とタバコモザイク病をもたらすタバコモザイクウイルス(TMV) と金ナノ粒子の複合体をもちいて、TMVや金ナノ粒子単独では得られない、 可視光領域での円偏光二色性を確認しています。 これは可視光領域でのカイラルメタ分子の実現とも言えます。 今後はこの研究を発展させて、3次元カイラルメタマテリアルを目指します。 このテーマが冒頭の2に対応します。

以上、「まだ半生を振り返るほど歳は取っていない」と自分では思ってはいながらも、 これまでの研究を振り返ってみました。その結果、 「自分はなんとたくさんの人たちに助けられて、支えられてここまで来たのだろう」 と感じました。この点だけでも、自分はとても幸運な人間だと思います。 今後も、様々な人達と出会い、刺激し合いながらも協力し、 新しいピークを登っていきたいと思います。 この新学術領域「電磁メタマテリアル」が、 そのようなパーティ達のベースキャンプになっていただければ、 これ以上にうれしいことはありません。


2012年1月10日:
2012年1月8日夕刊の毎日新聞「幸福のかたち: 3・11後の選択/6 ニート抜け出し就職」 の最後に出てくる冷蔵会社の支店長さんの言葉に、深く共感しました。
2011年1月22日:
NAISTの男女共同参画室によるインタヴュー集が出ました。 「大学院生や研究者を志す生徒・学生に 『研究を生業とすること』の魅力に気付いていただけるようなロールモデル」 になっていればうれしいです。(が、そうなっている自信はありません。) 回答が若干ピンボケのような気がする場合は、ご容赦ください。 ただ他の方のインタヴューと読み比べた結果、「なんだ、みんなそうなのね」 と感じる部分が幾つかあり、面白かったです。
ロールモデル集の公式ページは ここにあります。 ただし「eBook」なので、読み難い人もいらっしゃると思いますので、 若干の修正を加えたうえで、ここに再録します。

冨田知志
(奈良先端科学技術大学院大学・物質創成科学研究科・助教)

Q:「進路決定のきっかけは?」

A:
特別なきっかけは記憶にありません。学部・修士時代にやっていた研究が面白かったので、 そのまま素直に博士課程に進みました。当時は身近に研究者のロールモデルもあまりなかったので、 それほど深く考えなかったことが、かえって良かったのかもしれません。 その数少ない身近な研究者の人達は皆、楽しそうに仕事をしているように、 少なくとも当時の僕には、見えました。

仕事に関しては、他の仕事でも結構楽しめたのかもしれません。ただ僕の学生時代は、 いまと同じ「就職氷河期」で、選択肢があまりありませんでした。あとひとつだけ、 「毎朝ネクタイを締めて満員電車に揺られるのはたぶん耐えられないな」 と思ったことは覚えています。

Q:「ワーク・ライフ・バランスを実現していく上で、 心がけていること(工夫・努力していること)は?」

A:
「ワーク・ライフ・バランス」という言葉を聞くたびに、常々その意味について考えます。 そもそも「右と左でバランスをとる」という言い回しからも、 “バランス”するのは瞬間的に対立している概念(もしくは両極にあるモノ)なのでしょう。 では“ワーク(僕にとっては研究教育生活)”と “ライフ(人によって様々だと思いますが僕にとっては第一には家庭での生活)”は “対立”しているのか?僕はどちらかと言うと、“ワーク”は“ライフ”に“含まれる” と考えてしまうたちです。もう少し正確に言うと「互いに包摂される」 と言った方が良いかもしれません。よって“バランス”が取れなくても、 それはそれで良いのではないかと感じます。

もちろん「バランスをとる努力」をすることを否定しているではありません。 たとえ短期間で“バランス”を崩していても、長期間(極端な話、その人の人生全期間)で “収支”が合っていれば、それで良いんじゃないかなと思います。 それを寛容できるかどうかは、システムの問題だと思います。

そう意味で自分自身は瞬間瞬間のバランス感覚がとても悪いので、 この設問に答えるのはとても難しいです。

とはいえ、ストレスはどうやってもかかりますし、どんどん溜まります。 また僕はON/OFFの切り替えがそれほどうまい方ではありません。 ただ“ワーク”や“ライフ”でのストレスは、 それぞれその中でしか解消できないような気がしています。つまり仕事でのストレスは、 仕事でしか解消できない。前段の「包摂」という考えと矛盾するような気もしますが。 そういう意味で、片方をもう一方に持ち込まないようには極力心がけています。 ただすぐに顔に出るたちなので、家族にはいつもバレバレのようですけど。

あとライフ、特に妻との生活で心がけていることは、「妻は元々他人だ」ということです。 例えば何十年も付き合っている両親や兄弟なら言う必要もないことも、 “元々他人”の妻には言葉を尽くして説明する必要がある場合が多いと思います。 結局のところ、「結婚後はコミュニケーションが想像以上に必要だ」というありきたりの感想です。 ただこれも僕自身がそれを実行できているかどうかは、かなり自信がないので、 あまり偉そうなことは言えません。

Q:「研究者を目指す後輩へのアドバイスをお願いします」

A:
自分が「幸運の持ち主だ」と思えるなら、この仕事は向いていると思います。 これは「周りから客観的に見てその人が幸運かどうか」はそれほど重要ではなく、 「自分が置かれている状況を自分自身で幸運と思えるかどうか」という意味です。

Q:「ご自分の子供が研究者になりたいと言ったらどうしますか?」

A:
自分と別の分野だったら積極的に勧めます。自分と同じ分野だったら、かなり悩みます。

Q:「もう一度学生に戻ったら何がしたいですか?」

A:
いま思うことは、図書館に籠って、本を読みふけりたいです。




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