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研究内容

放射線物理分野においては、如何に不可視な放射線を計測するかが重要です。最も広く用いられている形態は固体検出器で、その中心は放射線を量子エネルギー変換によって、低エネルギー光子に即発的に変換するシンチレータであり、多くの計測装置において中心的な役割を担っています。当研究グループでは、このシンチレータの物質開発や物性計測を中心に、検出器開発までを垂直統合的に研究を行っています。合わせてシンチレーション現象の物性物理的な理解を目指し、エネルギー記憶型素子であるドシメーターの研究も広く行っています。

物理解析

観測した現象を解析し、物理的に考察します。大学3-4年程度の物理、大学1-2年程度の数学 (微分方程式、積分方程式) を使います。

結晶シンチレータ

一般的なシンチレータは単結晶が用いられています。当研究室では、酸化物、フッ化物、塩化物、臭化物、ヨウ化物などの結晶シンチレータの基礎物性を研究しています。シンチレータとしての特性以外にも、蛍光体としての物性評価も行います。サンプルは共同研究企業や大学からの提供、および研究室 (ハロゲンFZ、キセノン FZ、ブリッジマン) での合成です。

 

図は「すざく」衛星搭載シンチレータ、トクヤマ社により製品化されたLiCAF結晶シンチレータ、古河機械金属社のCe:GAGG 結晶シンチレータです。これらはシンチレータ自体の開発はほぼ完了し、現在は応用研究のフェーズです。当然、現在もこれらのシンチレータの特性向上研究は行っていますが他のシンチレータも実用化を目指して研究中です。研究室においては主に FZ 法やブリッジマン法で合成すると共に、共同研究先から提供を受けた材料に関しても研究を行っています。

実際に開発した結晶シンチレータの例を示します。左はパワーデバイス用半導体として研究が盛んに行われているGa2O3半導体シンチレータ、中は実用化例も多いガーネットシンチレータ、右は宝飾品として知られるルビーで、これも放射線を照射すると発光を示す事が知られています。最近では、有機無機ペロブスカイト単結晶を合成し、量子閉じ込め型シンチレータの開発も行っています。

透明セラミックスシンチレータ

セラミックスはこれまで不透明と考えられてきましたが、レーザー分野でのブレークスルーを基に、透明な物が得られるようになり、シンチレータなどの他の光学用途に応用が効くようになってきました。立方晶などの対称性が良い晶系のものに限られますが、単結晶に比べて発光中心濃度を濃く出来るなど、特徴的な性質があります。

左図は柳田が修士論文で開発した Ce 添加 GYAG、右図は近年注力している Yb 添加高速シンチレータです。サンプルは共同研究企業や大学からの提供、および研究室での合成(主として SPS) です。近年ではハロゲン化物透明セラミックスシンチレータおよびドシメータ開発を行っています。

実際に学生のテーマとして開発した透明セラミックスの例です。酸化マグネシウム、フッ化カルシウム (蛍石)、炭素添加サファイアはどれも高いドシメータ特性を示しました。

ガラスシンチレータ

ガラスは材料設計の自由度が極めて高いという利点を有する一方で、シンチレータ用途では実用化まで至った例が少なく、今後の発展が期待されます。下図は、産総研・正井博和先生にご提供頂いた Sn を発光中心として用いたガラスです。サンプルは共同研究企業や大学からの提供、および研究室での合成 (主として 急冷法) です。最近では産総研との共同研究の下、複合アニオンガラスシンチレータやドシメータの研究を進めています。

上図は研究室内で開発したガラスの例です。Na-Al-リン酸塩ガラスに全希土類を添加し、発光特性を調べました。Sn 添加 Zn-Al-リン酸塩ガラスは優れた熱蛍光特性を示しました。結晶化ガラスのシンチレータ応用研究も行っております。

燐光材料

シンチレータやレーザーなどは、エネルギーを入力した際に即座に発光しますが、一方である程度の時間光り続けている蛍光体もあります。このようなものを燐光や残光と呼び、当グループではシンチレーションと燐光や残光を統一的に理解すべく研究を行っています。

図は青色燐光体で、励起源を切った後も光り続けています。

輝尽・熱蛍光、RPL などのドシメータ研究

ガラスバッジなどの個人被ばく線量計用の蛍光体研究も行っています。これらは燐光材料の研究とも密接に関連があり、世界的には研究の盛んな分野です。シンチレータとドシメーター用の材料から物性、計測装置までを一研究室でカバーできるのは、世界的にも当研究室のみです。材料系は結晶、セラミック、ガラスを広く扱います。

熱蛍光グローカーブ (左)、輝尽性蛍光 (中) の測定例。(右) は千代田テクノル社の RPL 線量計の例。

受光 (光電変換) 素子

一般にシンチレータは、シンチレーション光を電子に変換する受光 (光電変換) 素子と対になって利用されます。光電変換素子の最も有名な例は、太陽電池です。太陽電池と異なり、当分野では光電変換素子の微弱光計測用途となり、大分測定方法も異なります。当研究室では太陽電池と同様の Si (含む APD、Ggeiger APD) や、GaN、ダイヤモンドといったワイドギャップ光電変換素子などの研究も行います。

 

左図は世界で初めて GaN + Pr:LuAG 結晶シンチレータで放射線計測に成功した例。右図は Si-APD を用いてシンチレータの固有分解能を計測する手法。

装置開発

シンチレータに関連した装置開発も積極的に行っています。これまでも国産「すざく」衛星、陽電子乳がん検診装置 (PEM)、PoGO-light 搭載中性子検出器などチーム型研究開発による装置、パルスX線ストリークカメラなどの個人研究による装置開発などを行ってきております。

左図は浜松ホトニクス社によって製品化された、パルスX線ストリークカメラの製品パンフレットです。基礎物性の計測などでは、オリジナルな装置開発が必要となる場合もあり、性能や着想が優れていた場合は、興味を持つ企業による製品化もありえます。この規模の装置だとほぼ個人研究です。一方。中図は打ち上げ前の「すざく」衛星です。このような大型装置の開発は数十人規模となります。右図は開発した LiCAF シンチレータを搭載した PoGO の打ち上げ前の様子 (Kole et al., incl. T. Yanagida, NIMI-A 770 68-75 2015) です。

物性計測

発光および吸収は真空紫外から近赤外まで、時間領域は数十ピコ秒から数十ミリ秒までを計測可能です。シンチレーション、PL の双方を観測し、ホスト-発光中心間のエネルギー輸送過程を類推することで、材料設計の指針となります。物性計測では数 K までの低温、応用研究では 500-600 K 程度の高温域での特性評価も行います。

これらの波長域での輝尽蛍光、熱蛍光、RPL の観測も可能なため、放射線誘起型の発光起源を網羅したエネルギー準位図を描くことができます。