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あっという間に年が明けて、既に半月経った。 最近の年越しには、家族と紅白歌合戦をみることにしている。一昨年は米津玄師さんを知ることができ、去年はKING GNUを知ることができた。とても幸運である。 米津玄師は、ハチが好きな家族が「すごくいいから聞いてよ」と騒いでいたし、KING GNUも以前、学生さんから、「すごくいいですよ、武田先生、きっと気に入りますよ」と勧められた気がする。 でもその時にはふーんと思ってそのままにしていた(すみません)。ところが紅白歌合戦は我が家では家族が時間を共有する場なので、内容に茶々を入れたり笑ったりしながら、ずっと見ることになる。 自分の趣味とは関係なく、いろいろな音楽を聴く仕掛けになっている。この仕掛けのおかげで、おおーっと思う音楽に出会うことができる。
自分が小中学生の頃は、いろいろな洋楽を知りたくて、毎週日曜の朝にラジオで流れる洋楽ホット20みたいな番組をカセットに録音し、繰り返し聴いたり、 FM音楽番組を聞くことで、新しい音楽を仕入れ、好みの音楽をこまめに見つけていた。 今は自分の好きな音楽がいろいろあるので、それらを中心に、たまたま聴いて気に入った音楽を新しく取り入れるぐらいがちょうどいい。 おかしなことに、自分の音楽の幅を拡げていられる限り、自分は大丈夫というような妙な気持がある。
研究も似たところがあるなぁと思う。 自分の中で「自分はこれを研究する」と研究テーマの核が形成される前には、いろいろな論文や学会誌を読み漁っていた。 しかし、自分の研究テーマの核がある程度できてからは、自分の研究上本当に必要な情報については、google検索や論文の孫引きなどで、徹底的に調べるが、 自分のカバー範囲の外の話や新しい話は、ときどき学会や研究会でいろいろな話を聴くことで、仕入れるぐらいでちょうどいい。 学会や研究会は、次世代を育成する場だったり、研究コミュニティを盛り上げるものだったり、仕事を他の人に知ってもらう場だったり、いろいろ役割があるが、 「知らなかった面白い話を仕入れる仕掛け」でもある。
参加すればなにかと面白い学会や研究会ではあるが、どのくらいの頻度で出席すべきかは悩ましい。
昔は、例えば春と秋の物理学会には必ず出るのが当然と思っていて、出産などで学会に参加できないときには苦痛でたまらなかった。今考えると、当時は
自分の研究テーマの核が形成される前だったので、出席しないと面白い情報を取得損ねる、おいてきぼりになる、と感じていたのだと思う。
でも近年は、年に10以上ある、関連する学会、研究会のうち、2、3、どれかで、学生さんの発表に合わせて参加発表すれば十分と思うようになった。
本当のところ、どの程度の頻度で参加発表するのがベストか、考えがまとまっていない。他の研究者を見ると、ほとんど学会に出ない人から、1つの学会だけ必ず出る人、さまざまな学会に必ず出る人など、みなさん、さまざまなスタイルである。
学会出席も個人の研究戦略のうちであるべきだが、これまで時々の事情に合わせて、あまり考えずに気ままにやってきてしまった。もう少しちゃんと考えなければならない。
本日は本学の創立記念日で、学校は一応休日となっている。先日は創立記念日記念講演会が開かれ、本学の石田靖雅先生が「PD-1 ~がん免疫療法の新境地を開いた分子~」 という題で講演された。従来だと、「生物分野の講演を聞いてもよくわからないし、ま、いいか」と考えてしまいがちな私であるが、今回は、 2018年の本庶先生のノーベル生理学医学賞の成果のとっかかりは石田先生の発見だと聞きかじっていたため、面白そうだなと思い、 また、異分野の人を相手にどういう風に話されるのか興味があり、聴講した。
お話は、結論から言うと、大変分かり易く、面白く、今自分が聴いた講演内容を周囲の人々に伝えたくてたまらなくなるようなものであった。(なので周囲の人々に話しまくりました。) 多分専門的な内容はブルーバックスあたりに出ていると思うし、またもしかするとあのご講演が映像で公開されているかもしれない。そこで、ここでは、内容には深く立ち入らずに、 なぜ自分がそんなに面白く思ったかを検討してみようと思う。
[1]専門用語がほとんどなかった。
同じ内容を論文で読んだら、専門用語だらけでちんぷんかんぷんだったと思うが、ご講演では、専門用語はほとんどなく、免疫として先天性免疫と獲得免疫があること、
B細胞とT細胞の説明、程度で、あとはPD-1が何をしているか、抑制することがなんでがんに効くのか、素人にも分かり易い概念を平易な言葉とシンプルな絵で説明されていた。
[2]話が整理されていて分かり易かった。
B細胞が外敵に目を向けているのに対しT細胞は自分自身に目を向けているなどの対比による概念の整理、それまでなにがわかっていて何がわかっていないかなどの立ち位置の整理、
など、専門家から見たら話が簡単化されすぎていたのかもしれないが、専門外からの自分からは話の筋が見やすかった。
[3]重要度が明瞭に示されていた。
業界のマイルストーンとなる論文について、論文のタイトルアブストラクトの画像の表示とともに、そのインパクトが平易な言葉で説明された。
サブトラクション法でB細胞の何か(忘れた)を見つけた論文について、発見内容も重要だがサブトラクション法という新手法を用いたことも重要なマイルストーンだったということなど。きいていて
当時の業界の研究のトレンドがわかった気になった。
[4]話のスケールの大きさ
もともと自己非自己識別機構にご興味をもたれた時点で問いの設定枠が大きい。PD-1の同定後も、「獲得免疫はあごのある脊椎動物にしかない」、
「PD-1は魚類では見つかっておらず鳥類、哺乳類にしかない」、など生物の進化過程でPD-1がどう生まれたかの推測、PD-1の抑制がなぜがんに効くのか
についての仮説など。話を聞いているとまるで本庶先生のノーベル生理学医学賞の成果は大きな研究の流れの中の一つに過ぎなく思えてくる。このスケールの大きさは
前に、半導体の会議でノーベル物理学賞受賞者のK. v. Klitzingが話していた時にも感じたことであった。こういう話ができる器の研究者になりたいよなと強く思う。
めでたくも本学の創立記念日と同じ日に、松下智裕教授が本研究室に着任され、研究室は新体制となる。新しい相互作用でいろいろな面白い研究ができるのではないかと楽しみである。