研究内容

 私たちの体で働くタンパク質の多くは、生体内において超分子複合体を形成しています。タンパク質超分子は、協同的な基質分子結合、回転・並進運動、環境に応答したシグナル伝達など、ナノスケールで駆動する分子=ナノマシンとして機能します(図1上)。  天然のタンパク質超分子のように機能するナノマシンを自由自在に構築できれば、医薬、工学のみならず様々な方面での革新が期待できるため、精力的に研究がなされています。近年、タンパク質を素材として、ワイヤー、チューブ、ケージなどの人工的なナノ構造体の構築が報告され、タンパク質超分子の人工構築法は磨かれつつあります(図1下)。 しかしながら、天然のタンパク質超分子のように駆動するタンパク質性人工ナノマシンの構築は未だ困難です。

 人工タンパク質超分子に動きを持たせようとする場合、駆動機構を一から構築するのは現状ではほぼ不可能です。そこで、環境変化や標的物質の結合に応答して大きく構造を変えるセンサータンパク質の動作機構を駆動系として超分子に組み込む戦略が有効と考えられます。 この戦略では、超分子内部の分子間相互作用と駆動機構をいかに両立させるかが課題となります。つまり、超分子化するには分子間に新たに相互作用を導入する必要がありますが、これが駆動機構と干渉するとうまく動作しなくなるため、その調整が極めて難しいのです。 ナノマシンとして駆動する人工タンパク質超分子を自由自在に構築できるようになるためには、駆動系をうまく機能させながらタンパク質を超分子化する新たな設計手法の開発が必要です。

 どうすれば組み込んだ駆動系がうまく機能するようにタンパク質を超分子化できるか?この課題に対して私達は、タンパク質分子が構造の一部分を他の分子と相互交換することにより超分子化する現象「ドメインスワッピング」を応用することを提案しています。 ドメインスワッピングでは、超分子化に際して天然構造における分子内の相互作用が分子間相互作用として踏襲されるため、タンパク質がもつ駆動機構を維持しつつ超分子化し得ることが特徴です(図2)。

 私達は最近、COの結合により可逆的に2量体が単量体に解離する紅色硫黄細菌のガスセンサータンパク質を、ドメインスワッピングによって超分子化することで、COの結合・解離によって可逆的に離散・会合を制御できるタンパク質超分子の構築に成功しました(図3, Yamanaka et al. Protein Sci. 2017)。 このように、ドメインスワッピングを利用することで、超分子化に必要な分子間相互作用の形成と駆動機構の維持を同時に達成することができ、ナノマシンとして駆動する人工タンパク質超分子の構築が可能になるのです。 現在私達は様々な天然のセンサー蛋白質を材料として、その動きを駆動系としてタンパク質超分子に組み込む研究に取り組んでいます。

 センサータンパク質をはじめとする天然の"動く"タンパク質を駆動系リソースとして利用し、天然タンパク質を凌駕するような性能や天然には無い働きをする人工バイオナノマシンを開発することが私達のゴールです。