研究紹介
実験的手法によるアミノ酸配列からの情報抽出
蛋白質を分子機械としてとらえる場合、そのメカニズムを考えようとすると、真っ先に何を考える必要があるでしょうか?たとえば、精密機械の場合を考えてみましょう。子供の時、 機械があれば、何でもかんでも分解してしまい、後になって、組み立てられなくなって困った経験はないでしょうか。これは、本能的に、機械をばらし、その部品を見て、なぜ動作するのか理解しようとする作業に他なりません。それでは、蛋白質の部品は何でしょうか?実は、部品を同定するという、動作原理を理解する上での、基本中の基本が、未だ、蛋白質の場合明らかになっていません。部品は、それ単独で何らかの機能を有し、その組み合わせによって、高度な機能を実現する、つまり、部品とは、機能上、それ以上分割不可能なものであり、分割によって高次の機能を損なうものであるといえます。
実は、長い進化の過程で、蛋白質の設計図ともいえるアミノ酸配列上、分割可能な場所と、分割不可能な場所が存在することが知られています。長い進化の過程をたどれば、分割不可能な領域を全て洗いだし、部品を抽出することが可能になるのかもしれません。しかし、我々は、進化の過程を待つほどに寿命は長くないので、遺伝子工学的な実験によって、仮想的な進化を施し、分割不可能な領域を抽出することが可能かどうか調べてきました。その結果、アミノ酸配列上には、分割不可能な場所が数個から10個程度連続した領域を形成し、そういった領域が、蛋白質中に10個程度存在することを見いだしてきました。我々は、これらの領域が蛋白質の部品であると考え、エレメントと名付けました。興味深いことに、機能上、分割不可能な領域と、構造形成上、分割不可能な領域は必ずしも一致せず、 機能と構造に関する部品が必ずしも同じではないことがわかってきています。現在は、一般的な蛋白質においても、このような部品が存在するのかどうか、さらには、個々の部品が果たす役割がなんなのかを調べ、蛋白質の設計原理の理解、ひいては、新しい蛋白質の分子設計法を提案するために研究を進めています。