研究紹介
蛋白質は、ナノオーダースケールの機能性分子であり、その特徴は、構成ユニットであるアミノ酸の配列の情報に基づいて、自発的に高次の規則構造を獲得し、生命活動に必要な機能を発現する点にあります。このように、蛋白質は、究極の自己組織化能力・機能発現能力を有する物質であり、その設計原理を明らかにすることは、生命現象の理解、病理・創薬への応用などのライフサイエンス分野への展開のみならず、広い意味での材料科学への応用が期待されます。私たちは、光応答性蛋白質、輸送蛋白質等、様々な機能性蛋白質を対象とした研究を通じ、蛋白質の設計原理を明らかにし、天然に存在しない蛋白質を作り出す学問(蛋白質設計工学)を創成することを、究極の研究目標としています。
蛋白質構築原理の理解
蛋白質の設計原理を理解するためには、蛋白質が有する自己組織化能を分子論的に理解し、さらには、アミノ酸配列にコードされた、立体構造形成や機能発現に関する情報を読み解く必要があります。さらに近年、単独では自己組織化能を有さない、従来の概念を覆す蛋白質(天然変性蛋白質)が発見され、より大きな枠組みでこれらの問題を理解する必要が生じています。
- 蛋白質折り畳み
- 実験的手法によるアミノ酸配列からの情報抽出
- 天然変性蛋白質
- 新規分子設計法の考案
光エネルギー変換・情報変換機構の理解
地球上で利用できるエネルギーの大半は、もとをたどると太陽から地球に届く光エネルギーに由来します。生物は、その誕生直後から、光エネルギーの固定化に深く関与してきました。さらに、固定化の効率を上げるために、その情報伝達系も発達し、その結果、高度に進化した光エネルギー変換機構、光情報変換機構を獲得してきました。我々は、これら高度に進化した光エネルギー変換・情報変換に関連した蛋白質群をモデル系として、蛋白質が示す多様な機能発現機構の分子論的な理解を目指しています。
- 光情報伝達機構の理解を目指したモデル系の構築
- 高次構造転移による情報伝達制御
- 蛋白質の情報変換プロセスの応用
蛋白質の揺らぎの理解
蛋白質は、非常に美しい規則構造を有しています。しかしながら、このような規則構造を保持する相互作用は、個々には、室温と同程度のエネルギーであり、結晶構造解析などによって示される静的な構造に反して、水中では大きく揺らいでいます。このような構造の揺らぎは、機能発現に本質的な構造転移、酵素反応制御に密接に関連していると考えられています。我々は、蛋白質が示す揺らぎ(ダイナミクス)を観測する実験的手法を開発し、蛋白質固有のダイナミクスの理解やその制御機構を解析しています。
- 中性子非弾性散乱・分子動力学計算を用いた蛋白質ダイナミクスの解析
- フェムト秒レーザーを用いた蛋白質ダイナミクスの解析
計測技術の開発
蛋白質を理解するためには、既存の測定/解析技術を駆使するだけでは不十分であり、新しい手法の開発が必要不可欠です。我々は、蛋白質の理解を促す新しい測定手法の開発を行っています。
- X線溶液散乱法を用いた構造転移の分子モデリング法の開発
- X線発生装置を用いたX線溶液散乱測定装置の開発
- 結晶構造解析
- ナノ秒レーザーを用いた分子内接触ダイナミクス計測法の開発